星の休日


 ゆうちゃんは夢を見ました。
 たった一人で暗い道を歩いていく夢です。
 ゆうちゃんは怖くてたまりません。
 お母さんやお父さんを一生懸命探します。
 心細そうな声はこだますら返さず、消えていきます。


 いつの間にか、辺りに白い光が漂ってきました。
 それにも気付かず、しばらく歩くと、突然、後ろから声がしました。
「ゆうちゃん。おはよう」
 ゆうちゃんは振り向いて、きょときょとと回りを見回しました。
 しかし、誰もいません。
「だれかいるの?」
「ここにいるよ」と、白い光が言いました。
「わあっ!」
 ゆうちゃんはびっくりしました。
 なんと、声の主はお星様だったのです。
 ぐるっと見回すと、おそらの上の上の方にいたお星様たちは、
 ほたるのようにふよふよ当たりに浮かんでいます。
 クスクスと笑う声に合わせて、チカチカと瞬いているようです。
 おそらには大きな満月のお月様がいるだけです。
 ゆうちゃんはまたびっくりしました。
 なので、
「どうしてお星さまたちはこんなところにいるの?」
 と、一番初めに声をかけてくれたお星様に尋ねました。
すると、そのお星様は、
「どうしてここにいちゃいけないの?」
 と、逆にゆうちゃんに聞き返しました。
「だって……、お星さまはいつも、おそらの上の上の方にいて、
 みんながまよわないようにしてくれてるんでしょ……?
 お星さまがいなくなったらみんな困ってしまうんだって、
 お母さんがいってたよ……?」
 少し困った顔でゆうちゃんは答えました。
 一層瞬いてお星様は、
「そう。でも今日は満月だから僕らはお休み。
 今日はお月様が全てを照らしてくれるからね。
 僕たちは今のうちに力を蓄えておいて、
 お月様が新月の時にめいっぱい輝くんだ。」
 と、言います。
「……しんげつってなあに?」
 ゆうちゃんは首を少しかしげて聞きます。
「……そうだなぁ、お月様の出ない夜があるだろう?」
「うん。」
 ゆうちゃんはこくんとうなずきます。
「あの日のお月様を新月っていうんだ。
 その日はお月様が一日、光るのをお休みしてここに来る。
 また、一ヶ月の間光り続けるためにね。
 ここは空気がいいからね。いるだけで元気になれるよ。」
「へぇー。そうなんだ。」
 ゆうちゃんはすごくドキドキしながら聞きました。
「私、お星さまをこんな近くで見たの初めて。……熱くないの?」
「熱くなんかないよ。」
 楽しそうにお星様は笑います。
「……さわってもいい?」
 うずうずとしながらゆうちゃんは聞きます。
 くすっと笑って、
「今日は特別サービスだよ。どうぞお触り下さい。」
 そう言って、お星様はフワッとゆうちゃんの指の先に触れました。
 パチッと小さな火花が散って、ゆうちゃんは思わず目をつぶりました。
 ……しばらくしてから、恐る恐る目を開けてみると、
 もうそこにはお星様はいません。
 ふよふよしていた他のお星様たちもいません。
 お空の上の上の方でいつもの通り瞬いているのが見えました。
 ゆうちゃんはなんだか無性に寂しくなりました。
 そこでもう一度、目をつぶってみました。
 ……そして次に目を開けると、そこはもうベッドの上でした。




 それからゆうちゃんは星空を眺めることが多くなりました。
 何かを待っているかのように、ずっとずっと眺めているのです。
 お母さんが不思議に思って、何を待っているの? と聞くと、
「ひみつだよ。ねっ。」
 と、言って、にっこりと空に笑いかけるのだ、ということです。




もどりましょう