手があったのです。
地から無限のように生える手が。
遠く遠く続く大地を埋め尽くす手、手、手。
力無くつぶれた手。
何かを求めるかの様に伸ばされたままの手。
ただ蠢き続ける手。
手が、あったのです。
赤い大地、紅い空、中途に生々しい肌色。
自分はついに気が狂ってしまったのだと思いました。
もう元には戻れないのだと。
哀しい筈なのに涙が出ませんでした。
自業自得だと、嗤う事もできませんでした。
私は、ただ立ち尽くしていました。
さわさわ、さわさわ、個々は勝手な動きをしているだけで全く統制など取れていようにもないのに、全体で見ると何かの意志を帯びているかの様で、不思議と眩暈のような感覚を覚えました。
ひたすらに続く土地。
立ち尽くす、私。
一体どれだけの時が過ぎていくのか、それとも戻っているのか、永いと云う感覚が、感覚だけが行き過ぎました。
どれだけそうしていたでしょう、ぐちゃり、と幽かだけれど、異質な音がしました。
私は辺りを見回します。
しかし、音源を特定する事は出来ませんでした。
ぐちゃり。
また、小さな音。
ふ、と自分の足下が気になりました。
ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゃり。
その音は私の足下、正確に云うと寧ろ私の足から発せられているものでした。
ぐちゃり、ぐちゃり、私の足は融けているとも沈んでいるともつかない格好で、土の中に消えていきます。
ぐちゃり。こうやって私もあの手の一群に呑まれるのだろうかと、……それもまた、悪くないか、と思いました。
このままあの中に埋もれ、自分を失えるなら今までしてきた事も全部無かった事に出来るんじゃないかと、期待している様な薄い感情も、ほんの少し、湧きました。
ところが、ぐちゃり……音がふいと途切れ、それきり視界が低くなるのは止まってしまいました。
私の腰は中途に土の中。
こんな状態のままで放って置かれるのは厭だ、と思いました。
でも、身体を土の中から引き出す気にはなれませんでした。
引きだそうにももうとろとろに融けて無くなってしまっている気がしてならなかったからです。
ほぼ無意識に腕を伸ばします。
高く、高く、天を求めるかの様に。
そして、そのまま……。








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