白昼夢 よく、こういう風に物語を書けるものね? そう、彼女が言った。 内容に大差はないけどね? 僕は答えた。 でも、書けるだけでも十分すごいわ。 彼女は心底そう言っている様で、僕はなんだかくすぐったくて。 答えるように紡ぎ出す。 彼女は僕を嫌いにならないでいてくれるだろうから。 例え僕が余り正常でなくても。 何しろ総ては僕の白昼夢。 まるで現実の続きのような既視感と、安定感。 それにも拘らず感じる浮遊感。 そして、しわしわ滲み出る不安感。 少しずつ、少しずつ裡に溜まりこんでそれは僕を蝕んでいく。 一回一回はたいした事はないんだ。 ただ、それがいつの間にか意思を持った流れのように、僕を飲み込んで。 だから、こうして書き出すのさ。 そうでもしないと、壊れてしまうから。 もう、壊れているかもしれないけどね? 壊れていようがいまいが、構わないわ。 今こうして話ができていて。 それで十分でしょう? そう、だねぇ…。 人なんて皆何処かしら、歪んでいるのかも知れないしね? 私も歪んでいる? 楽しそうに彼女は言った。 僕の側に居てくれている…それだけでもうきっと歪みを受けているよ? 答えるのはただ鈴の音。 綺麗な綺麗な笑い声。 僕にも僕の夢を食べてくれる獏がいればなぁ…。 ふと漏れた、夢の続き。 頭から爪先まで美しい獏に飲まれ蕩けてしまった夢の痕。 にっこりと彼女が微笑む。 君の物語を、私が食べてあげようか? 私が君の獏になる。 君の夢も現実も、総て食べてあげる…。 其の言葉を受け入れて、僕は今穏やかに暮らしている。 愛しい僕だけの獏とともに…。 on frame/back |